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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和49年(家イ)622号

上記当事者間の昭和四九年(家イ)第六二二号親族関係調整調停事件については下記理由により事件の性質上調停をするのに適当でないと認め家事審判規則第一三八条に則り調停をしないこととする。

理由

(1)  申立人は親子関係融和の調停を求め、その実情として、相手方は申立人の長女であるが、申立人の訪問を拒絶したり、又申立人が手紙をだしても返信をくれないような不仲の状態にあるので本申立に及んだというのである。

(2)  そこで本件について当調停委員会は昭和四九年一一月一日午後一時第一回調停期日を開き、当事者双方の事情を聴取し調停を試みたが申立人の主張は申立書記載の如き前記申立の趣旨、事情と異り金銭の要求の如くであり、相手方はこれを拒否し合意に至らなかつたので更に期日を続行することとし、本件調停申立の真意その実情を知るため本件を家庭裁判所調査官の調査に付すことにした。

(3)  しかして、本件調査の結果ならびに当庁昭和四七年(家イ)第七一七号協議離婚無効確認調停事件(申立人牧野俊雄、相手方内山綾子、昭和四八年九月三日調停不成立)記録編綴の各資料等によれば次の事実が認められる。

即ち

(イ)  相手方は申立人と相手方の母内山綾子(以下綾子と略称)との間に昭和二〇年八月二五日出生した長女であり、生後しばらくは両親の許で養育されていたが、申立人が昭和二二年秋頃尊属殺人罪で服役するようになつてからは母綾子のもとで成長し、更に申立人が熊本刑務所に服役中の昭和二八年一一月二五日両親が協議離婚した後は母綾子の親権に服し、(もつとも申立人は協議離婚は無効であると主張し争いのあるところである)そして昭和二九年三月二二日母綾子の戸籍に入籍しており、その後昭和四七年一〇月二一日夫宮下順(○○信用金庫勤務)と婚姻して現在に及び、親子三人で平穏な生活を送つている。

(ロ)  申立人は昭和二九年頃、仮釈放により一時出所したことはあるが、引続き昭和四七年七月一五日まで服役しており、出所後はしばらく就職したこともあつたが病身の故もあつて昭和四八年八月以降は職につかず生活保護をうけ現在に至つている。

(ハ)  て本件申立の動機等であるが、申立人は同人と相手方の母綾子間の前件協議離婚無効確認調停事件が不成立になつたものの気持がおさまらず依然として綾子との協議離婚の経緯について不満を抱いており、特に離婚に際し綾子に渡した金四七万円について納得がいかず、それに相当する金額を取戻すため金二五〇万円(物価変動等を考慮して算定した額)を請求したいのであるが、綾子がこれに応じないため子である相手方がその責任をとるべきであるとして本件申立をしたものであり、その実は相手方に金二〇〇万円を支払つて貰いたい趣旨であることが窺知できる。

(ニ)  申立人としては、その金を更生資金にして屋台を引いて働きたいといつているが、相手方はまだ物心がつかぬうちに申立人と別れたので同人に対し父親としての実感をもつておらず、なんら親子の心のつながりはなく、むしろ申立人が再三相手方に対し手紙をだしたり、父親として接しようとしても非常に困惑しており、又、相手方自身資産もなく夫に扶養されている現状では、申立人の要求金額に応ずることはとても望めないのが実情にあることがいえる。

(4)  以上の諸事実等に基いて審按するに、申立人が服役中妻子に去られ又姉等の親族にも見離され、出所後孤独な生活を送つている申立人の境遇からみて娘である相手方に近づきたいという心情は充分理解できるとしても、本件申立はそもそも離婚したもと妻綾子に対する不満、要求が転じて娘である相手方に対し金銭的要求として向けられたものである観を否めない。尤も申立人と相手方とは親子であるため形式的には扶養義務の存在を肯定できないこともないが、本件は扶養を求めているものでもなく、更に申立人と相手方間には全く親子としての情愛に乏しく且つ相手方は既婚の身であり、申立人の要求に応ずる経済的能力もなくその夫や義父母と申立人の間にあつて日夜精神的に苦しんでいる現状からみて結局相手方が本件金銭要求に応ずる意思がないことが明らかなので本件はこれ以上調停を重ねても合意の成立する見込みもなく、かかる事情に鑑み本件については事案の性質上調停をするのに適当でないと認め調停をしないことにしたのである。

(家事審判官 伊藤敦夫)

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